その1 C型肝炎ウイルスの感染について
すでにご承知のように、血液製剤により感染させられたC型肝炎が大きな問題となり、連日マスコミの話題になりました。一般の方は、あの病気はお産のときの出血の治療として投与されたフィブリノーゲンが原因で起こったものと考えていらっしゃると思います。確かに国や製薬会社に訴訟をおこした方たちの病気の原因は、フィブリノーゲンです。
ただし、C型肝炎ウイルス(以下HCVと略します)の感染は、他の原因でもたくさん生じているのです。重要なのは輸血です。現在輸血されている血液は、きちんとチェックされていますが、昔輸血を受けた場合は別です。そもそもHCVが発見(同定)されてのは1989年です。B型が1964年、A型が1973年ですから、C型は、かなり遅れて発見されたことになります。私が学生だった1970年代には、現在のC型肝炎を、non-A,nonB タイプの肝炎と呼んでいたくらいです。
つまりAでもBでもないが、確かに肝炎を引き起こす別のタイプの肝炎ウイルスが存在することは分かっていたのですが、その実態をつかめない状況だったのです。ですから、この時代(1989年以前、また発見後も信頼できる検査の準備が整う前)の輸血に使われた血液には、HCVが含まれていた可能性が十分にあるのです。一度でも輸血を受けた方、お産を経験された方は、ぜひHCV検査を行うべきです。検査は簡単です。血液検査で簡単に分かります。
また、その他の感染の原因として、刺青、覚せい剤などの回しうち、医療現場での針刺し事故、低い確率ながらHCV陽性の夫婦間の性行為、母親がHCV陽性の場合(母児感染)などが挙げられます。そうなると国民全員が、検査する必要があるのではと結論せざるを得ません。何故そこまでHCVにこだわるのか、これからその説明をします。
その2 HCVが引き起こす病気について
HCVが感染すると、その内の70パーセント程度の人が持続感染します。つまりHCVが、ずっと体内に潜むことになります。現在。日本で約200万人のHCV保有者(HCVキャリア)が、いるとされています。
世界中では1億3千万人だそうです。このキャリアの多くは慢性的に肝臓に炎症が続き、慢性肝炎、肝硬変、肝臓がんへと進んでいきます。ほとんどが無症状ですので本人は自分がキャリアであることを知りません。感染から30年、40年という長い経過の後に、肝硬変や肝臓がんという致命的な病気に発展します。
ですから、そうなる前に手をうたなければなりません。自分が、キャリアであるかどうか早いうちに調べておきましょう。
その3 治療について
肝臓がんになってしまった場合は、当然がんの治療を行います。ポイントは、がんになる前にいかにHCVを排除させ、がん発生を抑止するかということです。主に慢性肝炎と診断されている人がその対象になります。
1992年にインターフェロン(IFN)が認可されましたが、十分な治療成績は得られませんでした。ところが。最近になって有効な治療法が確立されてきました。PEG-IFN(ペグインターフェロン)とリバビリンという薬剤の併用療法です。この治療により約50~70パーセントの患者さんがウイルス学的治癒が可能となりました。細かなことをいうと、ウイルスのタイプ、ウイルスの量、性別、年齢などで治療効果は変わりますが、それにしても今まで期待できる治療法がなかったわけですから、驚くべき進歩です。長期の治療期間(6~18箇月)が必要ですが、入院は多くが3週間程度、あとは外来又は近くの診療所で、週に1回の注射及び内服薬で済みます。色々な副作用もありますが肝臓がんになるよりましです。私の診療所は川崎市の高津区にあります。幸運なことに同じ高津区に虎の門病院の分院があります。そこの院長先生は熊田先生といい、この病気、治療の第一人者です。厚生省の班会議の班長をされております。
ですから、私の所に来られるHCV患者さんのほとんどを熊田先生に紹介させてもらっています。私の友人もその一人で、今はウイルスも排除され元気に仕事をしています。ちなみに、この友人を紹介した際、熊田先生から、「このままだとあと10年で肝硬変、15年で肝臓がんになりますね」と言われたそうです。
その4 まとめ
HCV持続感染者の多くは、昭和30年~40年代にかけて起こったと考えられています。
したがって、HCV陽性者は高齢者に多い傾向にあります。ということは、すでに慢性肝炎の程度もかなり進んでいる人が、多いことになり、その治療も難しくなります。今後、この問題をどう解決していくかが一つの大きな問題です。
最後になりますが、頻度は少ないものの、若い人たち、50歳代以下のHCVキャリアの人たちに、ぜひ治療を受けてくださいと声を大にして申し上げたい。