当院は平成18年4月1日から、保険診療で禁煙治療を行える医療施設に認定されております。さらに6月1日からは、いわゆるニコチンパッチが保険適応となりましたので、完全に保険診療体制が整いました。7月6日現在、8名の方が禁煙に挑戦されています。次の条件を満たす方が禁煙治療の保険適応となりますので参考にしてください。
1) 外来患者であること(入院患者さんは適応外です)。
2) 喫煙指数(1日の喫煙本数×喫煙年数)が200以上であること。
3) 「タバコ依存症スクリ-ニングテスト(TDS)で5点以上の場合:このテストは質問表に「はい」、「いいえ」を答えるだけです。簡単な質問が10個あり、このうちの5項目以上に「はい」と答えると自動的にニコチン依存症と診断されるわけです。たとえば「禁煙や本数を減らそうと試みて、できなかったことがありましたか」などで、ほとんどの喫煙者は5点以上になるはずです。
4) 直ちに禁煙を希望する患者(わざわざ病院に来るのですから当然のことと思われます。)
5) 禁煙の手順の説明を受け文章で同意すること(サインするだけです。本人の意思を確認する目的です)。
以上です。特に難しいことはありません。次に実際の禁煙治療のスケジュ-ルをお話します。
<A>初回診察:喫煙状況及び基礎疾患の問診(狭心症や心筋梗塞などの虚血性心疾患のある方はニコチン製剤を用いての禁煙治療はできません。)、上記TDSによる評価結果の確認、呼気一酸化炭素濃度の測定(写真Aを見てください。私がくわえているのが測定器械です。ただひと吹きするだけです。まるでアルコ-ル濃度の測定と同じようですが、この測定は怖がる必要はありません。写真Bに結果が表示されています。5ppm でした。一般に 7ppm 以下がノンスモ-カ-で、喫煙者の場合は喫煙本数の増加に伴い、この値も上がってきます。ちなみに超ヘビ-スモ-カ-は 35ppm 以上となっていますが、これはあくまでも参考目安です。喫煙直後に測定すると 60ppm 以上にまで増加します。)、この後にニコチンパッチの説明をし、納得されてからニコチン治療の同意書にサインをもらいます。
これで治療のスタ-トラインに立ちました。いよいよニコチンパッチの処方です。
※ニコチンパッチは3種類あります。写真のCを見てください。商品名で ニコチネルTTS 30、20、10 です。
禁煙開始日を決定し(私の場合は初診日からスタ-トすることをお勧めしていますが)、ニコチネルTTS 30 を2週間処方します。1日に一枚貼るだけです。場所は両腕、腹部、腰背部と変えて貼ります(かぶれを防ぐためです。)。これで初回は終わりです。
<B>再診1(2週間後):禁煙状況の問診、禁煙続行中ならニコチネルTTS 30 をさらに2週間処方、呼気一酸化炭素濃度測定
<C>再診2(4週間後):禁煙状況の問診、禁煙続行中ならニコチネルTTS 20 を2週間、及びTTS 10 を2週間処方、呼気一酸化炭素濃度測定
<D>再診3(8週間後):禁煙状況の問診、ニコチネル中止して4週間後に再診するよう説明、呼気一酸化炭素濃度測定
<E>再診4(12週間後):最終回、禁煙状況の確認と今後の継続に対するアドバイス、呼気一酸化炭素濃度測定
以上、約3箇月で終了です(ニコチンパッチを使用する期間は、8週間となります。)。私たちは12週後をもって、この治療が成功したかどうか判断し、一年間の結果を社会保事務局長に届ける義務があります(これは一年間の禁煙治療を受けた患者さんの人数、及び成功した人数を知らせるだけで、個人名などの個人情報は一切含まれませんのでご安心ください。)。もちろん、その後禁煙が続けられているかは分かりませんが、取りあえず保険診療としてはこれで一区切りです。これが禁煙治療のスケジュ-ルです。ごちゃごちゃ書きましたが、内容はいたってシンプルです。
ところで、この禁煙治療はどこの医療機関でも受けられるわけではありません。施設基準を満たしている診療所や病院に限られます。詳しくは最寄の保険医療センタ―(元の保健所)に問い合わせてください。
さらに直接、その医療機関に電話して禁煙治療を保険で行っているかどうか確認された方が良いと思います。あまり多くはないと思います。私の患者さんの中には、多摩川をこえた世田谷から来られている方もいらっしゃいますから。
最後に、この禁煙治療にかかる費用について説明します。「ニコチネルTTS30」1枚が3割負担で120円軽度です。たばこ一箱よりかなり安いと思いませんか。当然「ニコチネルTTS20、ニコチネルTTS10」はさらに安くなります。
また診療所で支払う費用ですが、初回診察の場合、普通に風邪などで受診したときより 690円だけ多くかかります(3割負担の窓口支払額です)。
再診では、さらに安くなります。今まで、保険が適応されなかったころには、何万という費用がかかったケースもあったようです。非常に安くなったわけです。正直申し上げて、医療機関としましては、あまりにも安すぎて、わざわざ禁煙治療を行いたくないというのが実情です。採算が合わないのです。
新たに一酸化炭素の測定器械を購入し、患者さんには時間をかけて説明をし、社会保険事務局長に報告する義務を負うなどを考えると、この治療に積極的に参加することに二の足を踏んでしまうのは確かです。
私も今回の禁煙治療では赤字を覚悟しています。それでも内科及び呼吸器科を標榜しているからには、喫煙と関連する肺癌、肺気腫、虚血性心疾患などの病気を治療すると同時に予防も行う責任があると考えています。だから喫煙者を減らすことに協力することにしました。
9年ほど前に「胎児から始まるタバコ病」という本を築地書館から出版しました(当ホームページに書いてあります。)。その当時は、今のように禁煙、禁煙と騒がれていませんでした。9年経って、まさか禁煙治療が保険適応になろうとは・・・。感慨深いものがあります。
どうです、喫煙者の皆さん、一度禁煙に挑戦してみませんか。
自分の意志の強さを再確認してみませんか。