「もう何か月も、何年も前から咳が出やすくて困っている方が時々外来に来られます。
咳が出やすい病気は多いのですが、このように長期間にわたる場合、重要な、そして見落とされがちなのが逆流性食道炎です。
あまり聞きなれない病気でしょうが、このために咳が続き、色々な薬を使っても一向に改善しない方も結構みられます。逆流というのは胃の内容物や胃液が食道にもどることを意味します。
本来ですと一旦胃の中に入った食物は、食道と胃の境(噴門部)にある輪状の筋肉によって逆流はしないようになっているのですが、高齢者になるとこの筋肉の機能が衰えてきます。特に酸度の強い胃液が逆流すると食道に炎症がおき、「むねやけ」という症状を起こします。さらに胃液が喉の近くまで逆流すると「喉の違和感」や「頑固な咳」を、さらにひどい場合は逆流した物が気管支に入り「気管支炎」や「肺炎」まで起こすのです。
牛じゃああるまいし、人に反芻みたいなことがおきるのかと疑われる方へお話しましょう。私の診療所では老人検診のため胃のバリウム検査を毎日2人ずつ行っていますが、一度胃の中に入ったバリウムが、体を横にすると食道に戻っていく現象がしばしばみられます。
その程度はさまざまですが、ひどくなると喉にまで戻ります。あきらかに逆流している映像が見られるのです。ただこの場合は、わざと胃を膨らませているために逆流が起き易い状況を作っているため、普段の状態で必ずしも逆流しているかどうかはわかりません。また逆流している人が必ず症状を起こすとも限りません。
しかし、実際にバリウムの逆流を目の当たりにしてみると、食道が炎症を起こすのも無理からぬことだと実感します。特に症状のある患者さんに写真を見せて説明すると誰もが納得するのです。じゃあその治療は?と言いますと、一つは食後すぐに横にならないこと(牛になるぞといわれるのとは関係ないと思われますが)。一つは腹いっぱい食べないこと。腹6分目~7分目と指導しています。一つは胃酸を弱める薬を服用すること。最近は1日に一粒だけで十分な効果を示す薬があります。
PPI(プロトンポンプ インヒビタ-)という種類で薬品名としては、オメプラ-ル、オメプラゾン、タケプロンなどです。実際にこの一粒を毎日服用することにより、今までの咳がまったく起こらなくなった方がかなりおられるのです。頑固な咳が胃薬で治るという、ちょっと聞くと不思議な話しが現実にあるのです。
なお長期間続く咳の原因としては、ほかにもたくさんありますから注意してください。若い人の場合は多くはアレルギ-が関係していると思います。
また鼻炎や副鼻腔炎(蓄膿症〉の存在も重要です。喫煙が原因の場合や、気管支拡張症・慢性気管支炎、肺がんもあります。さらには血圧を下げる薬の中にも咳を起こすものがあります。
呼吸器科の先生とよく相談しください。