つい先日までは、カゼによる、いわゆるウイルス性胃腸炎が流行していたのですが、最近のように気温が上昇してくると、胃腸炎の主流は細菌性、つまり食中りに変わってきています。食中りとか食中毒と聞くと驚かれると思いますが、よーく考えてみてください。我々が食べているもので全く無菌なものなど存在しないのです。
火を通したものでも若干の細菌はくっついていると考えるのが妥当でしょう。ところが人間の体は強く、そのような細菌が体内に入ってきても、口の中、胃腸の中で細菌の増殖を押さえ、病気を起こさせないのです。では、どういう場合に下痢になるのでしょうか。
1つは体の抵抗力が落ちている時です。遊びすぎ、仕事のし過ぎ、勉強のし過ぎ、育児疲れ、寝不足、日光に浴びすぎた時などが良く経験する事例です。同じ食事を取ったとしても、抵抗力のある人では細菌の増殖が抑えられます。逆に抵抗力の低い人では細菌が増殖し胃腸炎が発生します。
2つ目は、初めから大量の細菌が食物に含まれていた場合です。夏場に食中毒が発生しやすい原因がこれです。要するに気温が上昇してくると細菌の増殖力が増加し、短時間に細菌の数が増えてしますわけです。刺身などの生ものがすぐに連想されますが、肉類、ハム、ソーセージなども原因となります。
当院ではキャンピロバクターという細菌がしばしば検出されます。あまり聞きなれない名前ですが、症状は軽いものから中等度まで、発熱のないものから39℃もでるものまで、また下痢も数日から10日間くらいとまちまちです。
このような細菌は本来そう毒力が強いものではありません。したがって、症状が発生した直前に食べたものが原因というよりは、2-3日前から1週間前に食べたものが原因ということもあるようです。つまり、その期間体内で徐々に増殖し、ある程度の量に達した時に発症するというわけです。この増殖には先に述べた抵抗力の要因が深く関わってきます。
1週間前に食べた焼き鳥が原因ではないか?と考えられる例もあります。
みなさん、焼き鳥はよく焼きましょう。
3つ目は典型的な食中毒、集団食中毒といわれる場合です。これは強い毒力をもった細菌を摂取してしまった場合で、抵抗力があっても避けきれないことが多いようです。具体的には、O-157をはじめとする病原大腸菌、サルモネラ菌、腸炎ビブリオ菌、赤痢菌などです。この場合は摂取してから発症までが5-8時間程度と早く、しかも同時期に大勢が発症するので、原因となった食品は容易に判定できます。
さて、ここからが本番です。
まる2日間、水のような下痢が続く場合は、まず食中りと考えて間違えありません。すぐに医院を受診してください。当院では下痢の回数が多く脱水がみられる場合や、吐き気のために水分摂取が困難な場合はすぐに点滴をします。500mlの水分にカロリーと塩分、カリウムを含む内容にします。患者さんは来院時はぐったりしていますが、点滴が終わる頃にはかなり元気になります。脱水というのは怖いものです。同時にわずかな採血を行い、白血球数とCRPというたんぱく質を測定します。10分程度で結果が出ます。この値から、現在体の中で起こっている炎症の強さが判定されます。
重症の場合にはさらに腎臓機能や肝臓機能、電解質のチェックを行い、便中の細菌検査も追加します。患者さんの様子をみて、水分摂取が困難な場合には点滴を追加するか入院を勧めます。外来治療可能と判断した場合は、腸内の細菌に対しての抗菌薬(ホスミシン、クラビットなど)および整腸剤と消化剤を処方します。下痢止めは処方しません。下痢便の中には多数の細菌が含まれています。
ですがら、どんどん下痢をして方がいいのです。大量の水分をとって、どんどん下痢をしたほうが早く治ります。
人間が食中毒の時に下痢をするというのは治療の第一歩、とても合目的な防御作用なのです。ですがら下痢止めなど禁忌です。ただし大量の下痢により脱水以外に電解質を大量に失われるので、この補給が重要です。スポーツドリンクがベストです。その他としては、胃腸には固形物は入れないほうが良いでしょう。消化する能力を失っている時に食物が入ってきては、胃腸は悲鳴を上げてしまいます。結果として下痢の回数が増えることになります。牛乳も禁止です。
すこし症状が落ち着いてきたら、少量のおかゆ、うどんなどから食べ始めてよいでしょう。食中りの基本は水分摂取と理解してください。尿の回数が増えてくることが軽快の目安です。小さなお子さんのいらっしゃる方は特に注意してください。下痢便が手についたままだと子供に移りますから、よーく手洗いしてください。お風呂も一番最後にして子供と一緒には入らないように。少し疲れて支離滅裂状態に陥りかけているのでこれで最後とします。強い腹痛と血液の混じった水様便の場合はすぐに医院に受診してください。
強い細菌による食中毒か、全く別の疾患(虚血性大腸炎など)も考えられるからです。
ではここまでとします。